ステップ A10-1-1
正則性とコーシー・リーマン方程式
この ページで まなぶ こと
- 複素関数の微分可能性(正則性)の意味がわかる
- コーシー・リーマン方程式で正則性を判定できるようになる
複素関数の微分は実と同じ定義式だが、hが平面の全方向から近づくため条件は格段にきびしい。f = u + iv が正則 ⇔ コーシー・リーマン方程式:∂u/∂x = ∂v/∂y、∂u/∂y = −∂v/∂x。zⁿ・e^z は正則、共役 z̄ は正則でない。
定義は同じ、条件は別世界
複素関数 f(z) の微分を、実関数(A4)とまったく同じ式で定義する:
\[f'(z) = \lim_{h \to 0} \frac{f(z + h) - f(z)}{h}\]ただし——ここが決定的——hは複素数。実軸に沿ってでも、虚軸に沿ってでも、らせんを描いてでも0に近づける。どの方向から近づいても同じ値にならなければ微分可能と言えない。1次元の道(左右2方向)しかなかった実関数と比べ、平面の全方向——条件は桁違いにきびしい。
領域の各点で微分できる関数を正則(せいそく)という。
例1 :f(z) = z² は正則。実関数と同じ計算で f′(z) = 2z((z + h)² − z² = 2zh + h² を h でわって h → 0——hの方向によらない)。zⁿ、多項式、e^z、sin z も正則で、微分公式はすべて実のときと同じ形だ。
例2 :f(z) = z̄(共役——G6)は正則でない。実軸方向(h実数)から近づくと差分商は1、虚軸方向(h = it)からだと (z̄ + (it)‾ − z̄)/it = −it/it = −1。方向で値が割れた——アウト。あんなに素直な関数が失格になる。それほど正則性は狭き門なのだ。
コーシー・リーマン方程式 — 正則性の判定式
f(z) = u(x, y) + iv(x, y)(実部uと虚部v——2変数関数のペア!)と書くと、「実軸から近づいた微分」と「虚軸から近づいた微分」が一致する条件は、偏微分(A7)の等式になる:
\[\frac{\partial u}{\partial x} = \frac{\partial v}{\partial y}, \qquad \frac{\partial u}{\partial y} = -\frac{\partial v}{\partial x}\]コーシー・リーマン方程式(CR方程式)。これが正則性の判定装置だ。
例3 :f(z) = z² = (x + iy)² = (x² − y²) + i(2xy)。u = x² − y²、v = 2xy。
∂u/∂x = 2x、∂v/∂y = 2x——一致 ✓ ∂u/∂y = −2y、−∂v/∂x = −2y——一致 ✓ 正則 ✓
例4 :f(z) = z̄ = x − iy。u = x、v = −y。∂u/∂x = 1、∂v/∂y = −1——不一致。正則でない ✓(例2と同じ結論が判定式からも出た。)
きびしさの見返り
CR方程式から、正則関数の実部uは ∂²u/∂x² + ∂²u/∂y² = 0 をみたす(調和関数——熱の定常分布や静電ポテンシャルの方程式!)。正則関数は、流体・電磁気・熱の2次元問題の解を量産する製造機なのだ。
| さらに次のたんげんで見るとおり、正則なら自動的に何回でも微分可能でテイラー展開できる——実関数ではありえない大盤振る舞い( | x | ³ は2回しか微分できない、など実世界は例外だらけだった)。狭き門の内側は、楽園になっている。 |
よくあるまちがい
その1:実部・虚部が滑らかなら正則と思う。 z̄ の u = x、v = −y はこの上なく滑らかだが正則でない。CR方程式という連携条件こそが本体だ。
その2:CR方程式の符号を忘れる。 2本目は ∂u/∂y = −∂v/∂x。マイナスの位置は「iを掛けると90°回る」ことの名残——G6の回転を思えば意味ごと覚えられる。
れんしゅう
f(z) = z² の f′(3) = ?
z² = (x² − y²) + i(2xy) の u = x² − y² について ∂u/∂x = □x。□は?
f(z) = z̄ は?
コーシー・リーマン方程式の1本目は?
f(z) = z³ の f′(2) = ?
正則関数の実部がみたす方程式は?
もっと れんしゅう
ボタンを おすと、あたらしい もんだいが でて くるよ。なんかいでも れんしゅう できるよ。
クリア! よく できました!